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VOL.312 [2021.5.19]
そら豆を茹でながら

 近所のスーパーに行ったら、そら豆が出ていた。愛媛産と表示されていた。
 現在、四国のりんごの会の会長さんは、松山の方である。松山は冬に、ご挨拶とりんご及び県産品の特段のお取り扱いのお願いに上がった。その松山の市場から来た豆かなぁと、ご縁を懐かしく思った。
 しかしやはり、何度か当欄で同じ話を書いて恐縮だけれども、5月のこの時期のそら豆で思い出すのは、作家の山口瞳先生だ。

 そう言えば、来週は東京競馬場で優駿牝馬(オークス)が行われる。随分TV CMを見る。
 今年は、無敗の純白乙女ソダシが、1600メートルの桜花賞に引き続き、2400メートルの厳しい距離のオークスでも勝利するのかが、大きな話題のようだ。
 (馬主さんに大変怒られるだろうが、ソダシの名前を聞いて、我々、減塩に「デキルダシ」を活用して健康づくりをしてきたチームとしては、"素出汁"の字を勝手に想像して、すこぶる親近感を抱いている。
 何にしても、ダシが勝つのは、いい事だから、応援したい)

 話を戻して、山口瞳先生と言えば、大変な競馬ファンで、府中(東京競馬場)でレースがある時は、ほぼ毎土日にお出かけになっていらっしゃった。
 新潮社で編集者見習い中の自分も、いわゆる鞄持ちとして、時にお供させて頂いた。
 初夏の風薫る5月の府中は、濃い緑が本当に美しい。競馬場のターフの緑、街の中の欅の並木の緑がまた美しい。
 最終12レースが終わると、その並木の間を府中の街、駅の方迄ゆっくりと歩いて、先生お気に入りの競馬関係者のお店で、反省会をしながら頂くビールが、何ものにも変えがたく美味しかった。
 あては、そら豆。これがまた、旨い。
「いま時分のそら豆とビールは、最高だからね」
 と瞳先生は、よく仰った。
 もちろん先生からは、5月のそら豆とビールの事だけではなくて、物事の真っ当で誠実な見方感じ方、そしてふるまい方を、さりげなく教えていただいた。
 そんなそら豆の5月を、40年近く経ったいまでも、宝の時間として思い出す。
 今日そら豆を茹でながら、一生懸命に、そしてちゃんと働こうと自問し自省している。
 社会人として初めての仕事の場で、とてつもなくありがたい、気づきの機会を頂いたことを感謝している。

令和3年5月19日 青森県知事 三村 申吾

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