家人が杉花粉アレルギーらしい。眼が痒い、鼻水が出るとティッシュペーパーを箱で持ち歩いている。
ちなみに例の“ピカイチデータ”では、青森県人は日本で2番目にティッシュを買うらしいので、持ち歩きもまんざら変ではないのかな?
ところで、今年の杉花粉は、昨年の何倍もらしい。従って、家人のみならずアレルギーの方々は大変しんどいと思う。
流行(はやり)に敏感な自分であったはずだが、オジさん化して以来、杉花粉はへっちゃらのようで、“ははは、キミ、鼻水が出てるぞ”と家人を指導できることは春のひとつの喜びではある。
しかし家人は、“ふふん”とオジさんをせせら笑いながら、春だからそんなにも旨くもないだろうに、実に美味しそうに塩焼きした鯖を、オジさんの前でひとりでパクパクと全部食べる意趣返しをする。
実にけしからん。実に生意気だ!
もしこれが、「嫁に喰わすな」の秋鯖ならば、離縁ものだ。
だって、オジさんは鯖が食べられないのだ。
Once upon a time.
昔々、オジさんの大々好物は、塩焼き鯖、味噌煮鯖だった。
鯖缶ももちろんだ。
母親があきれるほど本当に良く食べていた。
だって、百石の前沖は、日本一大量に良質の鯖が獲れる海だった。
(今じゃ、時には鯖一本と鮭一本が同じ高値だから、何ほど獲れなくなったことか)
さて、これほど好きな鯖ではあるが、確かに自分でも、ン、何か少し問題があるのかな?アレルギーってやつかな?と自覚するところはあった。
生鯖というか、締めでもまれに首周りにポツポツかゆいかゆいがでる事があった。
しかして、ある夜、オジさんは救急車を呼ぶまではしなかったが、動けなくなった。
ただただ気色が悪い、吐きたいのに吐けなく、口がほとんどきけない、脂汗だらけで、地球の自転と逆に目がくるくる回る。
あまりの状態に、我が町立病院救急外来に引きずられるように連れて行かれた。こんな事は初めての状態で、本当にもうだめかと思った。
“ああ、織田信長は、♪人生50年〜とひと舞いしての桶狭間、我は歩くもままならず、♪人生40年〜などと思った”と家人に後で語ったけれど、実際はそんな事すら考えられないほど具合が悪かった。
Dr.がやって来た。
吐けずのたうち回っているオジさんを見るなり、
Dr.「あー、あたってるよ。こりゃひどい」
とおっしゃるものだから、オジさんとしては、この若さで“アタリ”かと意識朦朧と考えたけれど、
Dr.「何食べたの」
家人「冷凍してあった鯖を焼いて食べたらしいです」
Dr.「ひどいね、匂うね。こりゃどうしようもない。胃洗浄しちゃった方がいいね」
“な、なんと。TVで見るには、胃洗浄とは例えば薬物の自殺未遂者がされる事ではないか、鯖でか!”
と情なく思う間もなく、鼻からチューブをするすると入れられて、“おりゃおりゃ、こりゃひゃっこい”と忘れもしない感触があって、見る見るシャーレというか処置用の皿に、出てくる出てくる。
んー、ホントだ。こりゃ鯖だ。いかにも悪くなっている鯖の匂いが処置室に充満した。
“さらば友よ、さらば鯖よ”
出るわ出るわ出るわ。
さばさばっと気分。さっぱりしたゼ。
信じられませんが、ケロッと気分改良、めきめきと良くなった。
Dr.「アレルギーあったんじゃないですか」
オジさん「時々ポツポツ出てたけど」
Dr.「こんな事になったんだから、もう止めた方がいいと思いますよ」
こうして、オジさんは、愛する鯖と別れの日を迎えたのでした。
職業柄、好きな嫌いな食べ物とかのアンケートに答えるのですが、鯖は嫌いなわけではなく、食べられなくなったのだと、この機会にご理解下されば幸いです。
ああ、それにしても、愛しきは鯖の塩焼き、恋しきは鯖の味噌煮・・・
さようなら

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